コインチェック流出で改めて考えたい「仮想通貨と金の違い」

”デジタル・ゴールド”は金の代用品ではない

仮想通貨は”デジタル・ゴールド”とも呼ばれており、金との類似性がしばしば指摘されています。
今回はコインチェック事件で仮想通貨の安全性に改めて疑問が投げかけられる中、安全資産と呼ばれている金と仮想通貨の違いについてまとめてみました。

金と仮想通貨、5つの相違点

コインチェックの流出事件で仮想通貨の安全性への関心が改めて高まっています。仮想通貨は金との類似性から”デジタル・ゴールド”とも呼ばれており、著名人や識者から仮想通貨が金の代用品となるとの指摘も少なくありません。

たとえば、類似点として、限られた資源であること、“採掘”されること、偽造ができないこと、分割しても価値が変わらないこと、そして劣化しないことなど挙げられています。

ただ、物理的な特徴としては似ている点も多い仮想通貨と金ですが、“投資”という観点から見ると少し話が違ってくるようです。

ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は25日、仮想通貨がなぜ金の代用品ではないのかについてまとめたリポートを公表しています。

同リポートでは、金は5つの点で仮想通貨とは異なると主張されています。

ボラティリティが低い

流動性が高い

確立された規制の枠踏みの中で取引されている

投資ポートフォリオで効果的な役割を担っている

需給要因が重複しない

こうした特徴は、デジタル化された今日の世界でも金が金融資産として効果的な役割を果たす根拠にもなっています。順に見ていきましょう。


 

金の値動きの大きさはビットコインの10分の1

金が通貨の裏付けとされていた時代、金価格の上昇はほぼインフレ率と同じでした。ブレトンウッズ体制が崩壊した1970年代以降で見ると、金価格は年に約10%のペースで上昇しています。
1970年代に急上昇していますが、過去40年のボラティリティ(価格の変化率)は他の金融資産と比べると落ち着いています。

仮想通貨の代表であるビットコインはここ数年で価格が急激に上昇しており、2017年だけで13倍になりました。

ビットコインの値動きは1日の平均で約5%、昨年12月には短期間で約40%下落するなど、急落に見舞われることも珍しくはありません。
値動きは非常に激しく、ドル建て金価格のおおよそ10倍です。

金の市場規模はビットコインの100倍以上

仮想通貨の市場規模は8000億ドル、ビットコインの1日の取引量は平均で20億ドルと推計されており、これは金の上場型投資信託(ETF)の取引量に匹敵します。

ただし、金ETFの取引量は金市場全体の取引量の1%未満であり、金市場全体では1日平均2500億ドルが取引されています。

仮想通貨市場では、まとまった売り注文を執行したい場合、金額的にも時間的にもまだ制約があるといわれています。要するに、「売りたいときに好きなだけ売ることができない」恐れがあるわけです。金市場ではこうした問題はほとんどありません。

金には多様性に富んだ需要先があり、宗教や文化にも根差している

金の需要先は宝飾品が54%、投資需要が30%、工業用品としての需要が10%、中央銀行が6%と多様です。宝飾品は宗教や文化に根差しており、過去20年にわたって常に50%から60%を占める安定した需要先となっています。

仮想通貨は電子決済のトークンとして利用され、潜在的には有望なマーケットではありますが、これまでのところ実際の決済での利用は限られています。

金は価格が上昇すると供給が増える?

仮想通貨も金も供給が限られている点は共通です。ビットコインは年約4%のペースで増加中ですが、2140年には供給がほぼゼロになるように設計されています。一方、金は年約1.7%のペースで増加しています。

ただし、金にはリサイクル市場があり、価格が上昇すると供給が増える傾向にあります。宝飾品を現金に換える消費者の存在により、価格が上昇すると供給が増えて価格のボラティリティを抑える役割を果たしています。

また、無政府通貨であることも共通点です。ただし、金が唯一無二であるのに対し、ビットコインはそうではありません。ビットコインに近い代替品を作ることは可能であり、より利便性の高い類似コインが出現する可能性も否めません。

金は規制されている

ほとんどの国で金の取引は認可制であり、規制もされています。一方、日本のような例外もありますが、多くの国では仮想通貨の法整備が遅れています。

また、資金洗浄、資本流出、投資家保護、通貨発行益を失う恐れなどから突然取引が停止されるリスクもあり、最近も韓国で実際に起きています。

また、米国では仮想通貨は取引ごとに利益または損失が発生しているとみなされ、すべての取引を報告する義務があります。こうした煩雑さから、アマゾンやウォルマート、ターゲットといった米小売り大手は決済にビットコインを認めていません。このような事情から、仮想通貨が決済通貨として普及するのかどうか疑問の声も少なくありません。

たとえば、米国では金コインの売上が低迷してますが、これは米株高で説明が可能ですし、中国での金需要は好調です。2017年の金需要の構成は、以前と何ら変わっていないことから、仮想通貨の影響を受けている証拠は見当たりません。

ただ、分散型台帳システムであるブロックチェーンは真に革新的であり、既存の金融サービスを越えて幅広いサービスに発展するかもしれません。

金市場では、様々な参加者がブロックチェーンを活用し、金を“デジタル資産”に変え、流通市場全体で金の出所を追跡し、取引後の決済プロセスの効率性化に取り組んでいます。

こうして見ると、仮想通貨は金にとって代わるものではなく、むしろ金市場の発展に寄与するツールを提供してくれているのかもしれません。

仮想通貨は金の代用品ではない、投資目的も異なる

WGCは仮想通貨は金の代用品ではないと結論づけています。

金には流動的で確立された市場があり、ポートフォリオの中で効果的な投資ツールであることが既に実証されているからです。金にはインフレ期には好調に推移し、景気後退期には株式市場と負の相関を示すという好ましい特性があります。

一方、仮想通貨の発足以来、株式市場では強気相場が続いていますので、金融市場と仮想通貨との相関はまだよく分かっていません。

仮想通貨市場はまだ始まったばかりであり、流動性も乏しい状況です。仮想通貨の人気は株より儲かるという高いリターンにあるようですので、投資の目的が金とは大きく異なるといえるでしょう。

コインチェック事件は仮想通貨そのものに欠陥があったわけではなく、仮想通貨を使ったサービスを提供する会社の問題です。とはいえ、規制の厳格さや流動性といった点で仮想通貨と金には大きな違いがあり、今回のような事件は金投資では起こりにくいとはいえるでしょう。

今回の事件をきっかけに、仮想通貨と金の相違点を確認し、どのようなメリットやデメリットがあるのかを整理して今後の投資に役立てたいものです。