仮想通貨がピンチ? 「育成」から「規制」へ 金融行政を転換か

仮想通貨交換業の「コインチェック」による580億円の仮想通貨流出事件はあったものの、引き続き仮想通貨熱は冷めることがない。

しかし、仮想通貨はその最大の特長である「匿名性」について、ピンチを迎えつつある。仮想通貨は、投資家自身の保有残高や取引記録が他人に知られることがなく、プライバシーが保護される。

その半面、違法取引にまつわるマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されるなどの可能性がある。犯罪に使われるリスクを抑えようと、各国の金融当局だけではなく、国際機関が「規制」に乗り出した。

仮想通貨業者の登録や本人確認作業がより厳しくなる

日本ではほとんど報道されなかったが、2017年7月、仮想通貨にとって大きな影響のある出来事が米国で起きた。米国の闇サイト「アルファベイ」が閉鎖に追い込まれたのだ。

アルファベイはインターネット上で最大の犯罪市場サイトといわれ、違法薬物や銃器、化学物質などを世界中に販売していた。

その資金決額は10億ドル(1000億円)以上とみられ、仮想通貨を利用していた。この「アルファベイ」閉鎖には、世界各国の当局が連携した。

「これが、仮想通貨を規制するうえでの教訓となった」と、金融庁関係者は言う。

その教訓とは、「消費者保護には、仮想通貨のようなデジタルの取引も、これまでのアナログな通常の取引と同じ規制が適用されるべきだ」ということ。

こうした考え方は、2018年3月19~20日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20(20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議に反映された。

その共同声明では、「仮想通貨(暗号資産)は、金融システムと経済の効率性と包括性をより広範に改善する可能性を秘めた技術的革新性を有するが、『消費者と投資家の保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、テロ資金調達』といった課題があるうえ、ソブリン通貨としての主要な特性は欠いている」とした。

そのうえで、FATF(金融活動作業部会)に対して消費者と投資家保護の基準の見直しを求め、さらにBCBS(バーゼル銀行監督委員会)やIOSCO(証券監督者国際)、IAIS(保険監督者国際機構)などに対して仮想通貨とそのリスクの監督の継続と、必要に応じた多国間対応の評価を要請した。

この声明を受けて、FATFは18年7月までに仮想通貨取引交換業者の登録制や本人確認作業を現状の「ガイダンス(指導)」から「義務」にレベルを引き上げる旨の報告書を作成し、公表する方針だ。

仮想通貨を活用した資金調達の8割近くが失敗

金融庁はこれまで、仮想通貨業者には世界で初めて登録制を導入するなど、フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)の育成という立場をとってきたが、その姿勢は一変し、今後は規制を中心とした行政方針に転換する可能性が高い。

 

それでも、仮想通貨を活用した資金調達(ICO)などは活況を呈している。

国際通貨研究所によると、2018年1~3月には、世界中で毎月50件以上の資金調達案件が実施され、その調達額は総額で50億ドル(約5400億円)に迫っている。

これは、2017年の年間約45億ドル(約4800億円)をすでに上回っているのだ。

 

だが、BITCOIN MARKET JOURNALの2017年12月27日付の記事には、同誌が査定した600以上の仮想通貨を活用した資金調達案件のうち、プロジェクトが完遂したのは約3分の2(394件)で、そのなかで最終損益を報告できたのは約35%であったと掲載されている。

つまり、600件以上の案件で最終損益が報告されたのは約140件だったということ。

8割近いプロジェクトは失敗に終わったということだ。

 

問題は、仮想通貨を活用した資金調達では、株式や債券が発行されるわけではないため、投資家の権利が曖昧な点にある。

株式には議決権というものが備わっているが、仮想通貨を活用した資金調達で発行されるトークン(新たな仮想通貨)には、議決権がない。だから、資金調達を行った企業やプロジェクトの内容に対してチェックができず、非常に高いリスクを内包していることになる。結果的に、仮想通貨を活用した資金調達では、詐欺まがいのプロジェクトが横行し、それに対して、投資家には何ら手立てがないという状況が罷り通ってしまうわけだ。

 

それゆえ、犯罪への利用や、詐欺まがいの資金調達から投資家を守るためには、仮想通貨のようなデジタルな取引であっても、これまでのアナログな通常の取引と同様の規制を敷いていくことになる。その場合、おそらく仮想通貨の持つ魅力の大部分が失われることになるだろう。

(J-CAST会社ウォッチ / 2018年4月23日 より)